家族構成 ご夫婦
施工エリア 瀬戸市
建物概要 二階建て
敷地面積 ~50坪
延床面積 ~30坪
絵画やアートの収集が趣味というご夫婦。住まう場所に選ばれたのは、自然豊かな焼き物の街、愛知県瀬戸市でした。
外に開かずアートを楽しむ美術館のような空間としたい一方で、美しく広がる景色も味わいたい。内と外、相反するふたつの要素を両立させた住まいです。

目次

    手仕事の温もりを感じる家

    もともとは、名古屋の中心部からほど近くに住まわれていたお施主さま。老後ゆっくりと暮らすことも考え、都心の喧騒を離れた静かな場所を探していました。

    そんなご夫婦の心を動かしたのは、焼き物の街として知られる瀬戸。縁もゆかりもなかったものの、のどかに広がる自然や文化的な背景に惹かれ、この地に移り住みました。

    家づくりにおいてネイエに共感を覚えたのは、自然素材と手仕事の温もりが感じられたところ。

    モデルハウスへ何度か足を運ぶうち、暮らしと共に素材が変わってゆくことに興味を持たれたそうです。家づくりへの想いがますます深まっていくきっかけになったとも。

    ご夫婦が心惹かれるのは、アートをはじめとした、人がつくる“もの“。瀬戸に来たことで、地元ならではの焼き物に触れる機会が増えました。ネイエでも感じた人の手による温かみが魅力だと話す奥様。

    そんな想いを表すかのように、壁にはお気に入りのアートがかけられ、思い入れのある調度品が置かれています。どれも主張をすることなく、家を背景に自然と調和を図っているようでした。

    矛盾から生まれた、新たな家のかたち

    当初は、アートを飾ることができる美術館のような家を想定していました。内に閉じることを構想していた中で、隠すにはあまりにも惜しいほどの情景が、その考えを一変させます。

    「外は見たいけれども、中は見せたくない。そんな難しいお願いをしてしまいました」と、無邪気に笑うご主人。

    矛盾を成り立たせたのは、玄関をなくす提案でした。

    玄関がないことに違和感を覚えることなく馴染んでいるのも、この住まいの特徴です。ダイニングに大きな掃き出し窓を設け、エントランスを兼ねたつくり。南側には家が立ち並ぶことに配慮し、北側のダイニングから出入りができるようにしました。

    提案を聞いた時は驚いたそうですが、「自分らしさのある家になる」と考え、受け入れることを決断。そこには、当たり前に存在するものをあえてなくした、新しい家のかたちがありました。

    「見た目や気持ちもすっきりするので、採用して良かったです」と奥様も笑顔。常に靴を仕舞う習慣ができ、生活にも良い影響を与えています。

    北側と南側の窓のおかげで風通しが良く、ホコリなどが溜まらないため、掃除の頻度も少なく済んでいるのだとか。

    時間や気分で選ぶ、お気に入りの場所

    エントランスをまたぐと広がるのは、外に大きく開いたダイニングキッチン。壁一面に直接描かれた現代アートは、お施主さまが徳島県のアーティストに依頼をしたもの。

    主張が強い家電製品はすべて収納をすることで、生活感が出ないよう工夫をしています。キッチンには、その代わりにさまざまな焼き物が並んでいました。絵画とも不思議な調和を見せています。

    こうしたアートや景色を横目に、ご夫婦そろってダイニングでコーヒーを飲むのが朝の贅沢な過ごし方。

    それ以降の時間帯では、「移り変わる陽の光によって、居心地の良い場所が変わっていく」のが面白いところ。南側の窓に設けられた縁側も、お気に入りの居場所のひとつです。

    特に景色を眺めたいときの特等席は、ご主人の趣味部屋も兼ねた和室。

    「主人のお母さんが桜を見に来た際に、ここでお茶を立ててくれたんです。」いずれは自分たちでも立てられるように、ご夫婦でお茶の勉強をはじめるなど、日常にさまざまな彩りを与えています。

    二階の寝室からの眺めも、また特別なもの。鮮やかに咲き誇る桜、川を愛らしく泳ぐ鴨、木々に集まるカワセミ。その風景は絵画を切り取ったようで、ひとつのアートとしても成り立つほどの空間です。

    また、「夜、窓のロールカーテンを下げて、スクリーン代わりに映画を見るのも良いんです。」そんな意外な過ごし方も。

    一方で、日没後の主役は、窓を極力減らして内に閉じたリビング。アートが引き立つようシンプルに仕上げた壁には、お気に入りの絵画が並びます。和室から差し込む柔らかな光に照らされ、さまざまな表情を見せるのも魅力的です。

    ご主人は語ります。「絵をかけ替えると、部屋の空気感が変わるんです。いまの絵もずっとこのままというわけではなく、季節ごとに替えるのも楽しみのひとつです。」

    ここでも雰囲気を重視して、テレビは置いていません。頻度は少ないながら、テレビを見る際にはノートPCを使っています。アートを味わう時間を大切にするおふたりならではの選択です。

    リビングとダイニングの間に設けた開口部は、通り道にしたり、腰をかけたり。「真正面よりも、少し離れた関係で話す方が落ち着くんです」と奥さまが言うように、設計士が壁とのバランスや距離感を細かく調整したこだわりの場所です。

    お手入れは、愛着の証

    ダイニングから覗くのは、ご主人の憧れが詰まったお庭。北側では松の木が風格を、南側ではモミジが気品を演出しています。

    この松やモミジは、ご主人自ら設計士とともに三重県の造園屋まで足を運んで決めたもの。実は、最初はあまりしっくりきていませんでしたが、「最終的には感動するほどの仕上がりとなりました。」

    そんな思い入れのあるお庭だけに、お手入れにも気をつかっています。水遣りや落ち葉の掃除、雑草の草抜きはかかしません。

    とはいえ、困った時には庭師の力も借りています。「最初のうちは、剪定などの専門的なところは造園屋さんにお任せをする予定です。」

    そして、お庭への想いを噛み締めるように、こう話します。「とても素敵なお庭をつくってくださったので、引き継いだ自分たちの手で廃れさせるわけにはいかないと。だからこそ、お手入れもまったく苦ではないですし、それが家に対する愛着にもつながっています。」

    不便さを慈しむということ

    日々の生活において、ひと手間を大事にされているおふたり。「家づくりでも便利さはあまり求めませんでした」と語る表情は、どこか不便さを愉しんでいるよう。

    キッチンも、動線などについての要望はなかったと設計士は振り返ります。

    「手の届くところに調理器具があるといったことは、重視していないんです。ひと手間かけて扉を開ける。そして、その扉を優しく閉める。そういった時間や家との触れ合いがある方がいいなと。」

    その想いは、駐車場からエントランスへのアプローチにも込められています。あえて少し歩くことによって、気持ちを切り替えたり、何気ない季節の変化を感じたりできるつくりに。

    「ちょっと遠回りをするのも、いいものです。」

    その言葉はまるで、おふたりがこれからこのお家と歩む生き方を表しているようでした。

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